何年か前の暑い暑い夏の日
このプランターに水遣りをしていた。
舗道に背を向ける事になる。
銀行の交差点の方から
男の人がこちらに向かって
歩いて来るのが見えた。
別に気にもならなかった。
でも、その人が私の後ろを通過した時
「えっ!」びっくりしてその人を見た。
呼吸が尋常じゃなかったから。
さらに驚く事に
その人は裸足だった。
シャツと短パンは水をかぶった様に
汗びっしょり
炎天下長い時間
歩いているんだと思った。
呼吸は荒く髪も髭もボサボサ
今にも倒れそうになりながら
焼けた舗道の上を
信じられなくらいの速さで
どんどん歩いて行った。
先のスーパーの前で
何人もとすれ違うその人を
呆然として見ていた。
誰かがきっと気が付いてくれる
そう願ったのに
誰もその人に気付かなかった。
「私ひとりでは止められない」
どうする事が最善か‥
急いで自転車で追い掛けて
どんどん直進する事を確信して
杉平で追い越して
警察署に入って早口で説明をした。
大勢の警官が直ぐ準備して
外に飛び出して
ひとりの警官がその人に声を掛けた。
止められたその人は
ワンワン子供みたいに大声で泣き出した。
警官達がなだめながら
警察署に連れて行った。
「念のため」と
私の氏名を聞いた警官が
「あのままやったら
七尾までも行ってしまった」と言った。
男の人は促されて
椅子に腰掛けてもまだ泣き続けていた。
「不審者」を通報した事になったと思う。
でも私はただただあの人を
止めてあげたかった。
何かひどく辛い事があって
心が壊れてしまったのかな?
今頃家族が探しているかも知れない
奥さんや子供がいるかも知れない。
自転車で追い掛けながら
そんな事を思っていた。
「怖い」とか「不審者」とは全く思わなかった。
あの人はあれからどうなったのかな?
元気になっているといいな‥
この花はあの夏の時と同じ。
冬の葉牡丹からこの花に植え替えになると
思い出す。