ライオンの父

山にひとりでいると
父と来ていた頃の事を思い出します。

若い頃大工だった父。
「魂」はずっと
「大工」のままだったと思う。
口が悪く厳しかった。
「仕事甲斐性」の無い人間は
「クズ」扱いだった。
私にも容赦なかった。

山で斜面を滑り落ちそうになっても
手を差し伸べてなんてくれなかった。

必死でその辺の草にしがみつく私に
「誰かに見られたら100年の恋も冷めるな」
皮肉を言ったりした。

父が木々をかき分けて先を行く。
枝が弓なりになって弾かれ
後ろを歩く私の顔に勢いよく当たる。
棘のある木だった事もあった。

父と一緒に山に行くと
谷底に我が子を突き落とすという
ライオンの話しを思い出した。

昨日、ザーザー雨の中
泥だらけで斜面にしがみ付いていた。

父の「100年の恋も冷める」が聞けなくて
寂しいと思った。